「体にいいもの」選びに、迷ってしまう人へ。
夕方の風が、ほんの少しだけ涼しくなった気がします。
そんな季節の変わり目、買い物かごを提げて棚の前に立つと、ふと手が止まることはありませんか。
「食物繊維たっぷり」「ビタミン配合」「糖類ゼロ」。
どれも体によさそうなのに、どれを選べばいいのか、わからなくなる。
今日は、その「わからなさ」を一緒にほどいていく回です。
01「体によさそう」を選んでいるのに、整わない
朝はシリアルにヨーグルト。小腹がすいたらシリアルバー。飲みものは野菜のジュースやスムージー。
体のことを考えて、ちゃんと「よさそうなもの」を選んでいる。それなのに、なんとなくだるい。食べたばかりなのに、またすぐ何かをつまみたくなる。午後になると、集中の糸がぷつんと切れる。
そういう声を、よくいただきます。
無理もないことだと思うのです。テレビでは新しい健康食材が紹介され、SNSでは正反対の食事法が同じ日に流れてきます。「体にいい」と言われるものは年々増えていくのに、選ぶための物差しは、誰も教えてくれませんでした。
まずお伝えしたいのは、それはあなたの選び方が「間違っていた」からではない、ということです。棚に並ぶ食品のパッケージは、体によさそうに見えるよう、とても丁寧につくられています。その中から本当に自分に合うものを見分けるのは、誰にとっても簡単なことではないのです。
だから今日は、責めるためではなく、これからの選びものが少し楽になるように。「体によさそうな顔をした食べもの」の中身を、台所の目線で一緒にのぞいてみたいと思います。
02「加工」とは、台所の外で済まされた下ごしらえ
最初の手がかりは、「加工」という言葉です。
加工食品と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。でも、加工そのものは悪者ではありません。米を精米するのも、魚を干物にするのも、大豆を豆腐にするのも、みんな加工です。人の暮らしは、昔から加工とともにありました。
加工とは、いわば「台所の外で済まされた下ごしらえ」です。誰かが先に、洗って、刻んで、煮て、味をつけておいてくれる。忙しい日に、これほどありがたいことはありません。
ただ、ひとつだけ、心に留めておきたいことがあります。
下ごしらえの回数が増えるほど、つまり加工の度合いが深くなるほど、「元の食材の顔」が見えなくなっていく、ということです。
週末の朝市に足を運ぶと、台の上の里芋や新ごぼうは、土がついたまま、掘りたての顔で並んでいます。値札の隅に、育てた方の名前が添えられていることもあります。
ゆでた枝豆は、ひと目で大豆の子どもだとわかります。豆腐も、まだ大豆の面影があります。でも、袋菓子やシリアルバーになると、原料が何だったのか、姿からはもう思い浮かびません。
加工には、こんなふうにグラデーションがあります。切り干し大根や冷凍のほうれん草は、干す・凍らせるというひと手間だけの、浅い加工。納豆や味噌は、微生物の力を借りた、昔ながらの加工。そして、いくつもの原料を砕いて、混ぜて、成形して、味と香りを整えたものは、深い加工です。同じ「加工食品」という言葉の中に、ずいぶん違う顔ぶれが同居しているのです。
元の顔が見えなくなるとき、一緒に見えなくなりやすいものがあります。それが、次にお話しする「糖」です。
03「見えない糖」は、甘くない顔でやってくる
砂糖は、わかりやすい甘さの顔をしています。ケーキやチョコレートを食べるとき、わたしたちは「いま甘いものを食べている」と、ちゃんと知っています。
気をつけたいのは、甘い顔をしていない糖のほうです。
たとえば、パンやシリアル。ドレッシングや、めんつゆ、パスタソース。果汁のジュースや、乳酸菌の甘い飲みもの。どれも「お菓子」の顔はしていませんが、原材料をたどると、糖が思いのほかたくさん入っていることがあります。
もうひとつは、「精製」という下ごしらえを経た糖です。精製とは、雑味やミネラルを取りのぞいて、甘さの成分だけを残す加工のこと。さとうきびという植物の面影は、白い砂糖や液状の糖になったとき、ほとんど残っていません。
精製された糖は、消化に手間がかからないぶん、体の中にすっと速く入ってきます。すると、血糖値が急に上がって、そのあと急に下がる、という「ゆれ」が起きやすくなると考えられています。血糖値は、体をめぐるエネルギーの水位のようなものです。
台所のコンロにたとえるなら、強火でぼっと燃え上がって、すぐに火が細くなるようなもの。食べたばかりなのにまた何かつまみたくなるのも、午後にふっと力が抜けるのも、この火加減のゆれと関わっている可能性がある、と言われています。
おもしろいのは、同じ「甘さ」でも、丸ごとの果物になると話が変わってくることです。梨やぶどうの甘さには、食物繊維が寄り添っています。繊維という「包み」があるぶん、糖はゆっくりほどかれて、水位の上がり方もゆるやかになりやすいと考えられています。いっぽう、果汁だけを搾った飲みものは、その包みを外した状態。同じ果物でも、「かじる」と「飲む」では、体への入り方が違ってくるのです。
とくに、飲みものの糖は速く入ります。噛む必要がないからです。甘い飲みものを選ぶ場面が多い方は、まずここをお茶や水に替えるだけでも、火加減はずいぶん穏やかになると言われています。
「甘いものを食べすぎたかどうか」は、お菓子の量だけでは測れません。甘くない顔をした食品の中に、糖は静かに座っていることがあるからです。だから大事なのは、我慢の強さではなく、「どこに座っているか」を知っていること。知っていれば、選び方は自然に変わっていくと考えられています。
04「健康そうな顔」は、パッケージの表側でつくられる
では、「体によさそうな顔」は、どこで生まれるのでしょうか。
その多くは、パッケージの表側でつくられます。「食物繊維入り」「ビタミン配合」「植物性」「オフ」「ゼロ」。表側に並ぶのは、その食品のいちばん見せたい一面です。嘘ではないけれど、全体像でもありません。
お見合い写真のようなもの、と言ってもいいかもしれません。
たとえば「食物繊維入り」と書かれたお菓子があるとします。それは事実でしょう。ただ、その横で、糖と油が主役の座に座っていることもあります。「入っているもの」を語る言葉は、「たくさん入っているもの」を語る言葉とは限らない。ここが、表側の言葉の読みどころです。
いっぽう、パッケージの裏側には、「原材料表示」という小さな欄があります。ここには、その食品に使われたものが、法律にもとづいて、使われた量の多い順に並んでいます。
表側が「広告の顔」だとしたら、裏側は「台所の顔」です。この食品は、何を、どれくらいの順番で使ってつくられたのか。裏側は、それを静かに教えてくれます。
わたし自身、この裏側を読む習慣がつくまでは、表側の言葉だけで選んでいました。読みはじめてから驚いたのは、「健康そうな顔」と「台所の顔」が、ずいぶん違うことがある、という事実でした。たとえば、体によさそうな飲みものの原材料の先頭に、糖の名前が座っていたりするのです。
05裏側を三秒だけ読む、三つのコツ
とはいえ、買い物のたびにすべての表示をじっくり読むのは、現実的ではありません。夕方のスーパーは、それでなくても時間との勝負です。
だから、三秒だけ。裏返して、三つのことだけ見てみてください。
三秒でできる、裏側の読み方
- 先頭の三つを見る 原材料は多い順。最初の三つが、その食品の「主役」です
- 糖の別名を知っておく 砂糖のほかに、果糖ぶどう糖液糖・ぶどう糖果糖液糖・水あめ・濃縮果汁なども、糖の仲間です
- 元の姿が思い浮かぶか 大豆、小麦、鶏肉、トマト。食材の名前が並ぶほど、台所に近い食品だと言えます
この三つだけで、パッケージの表側に頼らない「自分の目」が持てるようになります。
覚えなくても大丈夫です。まずは今度の買いもので、いつも選んでいるものをひとつだけ、裏返してみてください。それだけで、棚の景色が少し変わって見えるはずです。
最初は、少し時間がかかるかもしれません。でも、料理の下ごしらえと同じで、これは慣れの世界です。二週間もすると、手が勝手に裏返すようになります。そして不思議なことに、読めるようになると、我慢をしている感覚がないまま、かごの中身が静かに変わっていきます。
今日、あなたの買い物かごに入っているもののなかで、
「元の姿」が思い浮かぶ食べものは、いくつあるでしょうか。
06加工食品を、悪者にしないでください
ここまで読んで、「じゃあ加工食品はぜんぶだめなんだ」と感じた方がいたら、それはわたしの本意ではありません。
缶詰の鯖に助けられる夜があります。冷凍の野菜が、疲れた日の味噌汁を支えてくれます。レトルトのスープが、体調を崩した日の味方になってくれます。加工食品は、忙しい暮らしを支えてくれる、大切な仲間です。
問題は「加工食品かどうか」ではなく、「毎日の主役の席に、誰が座っているか」なのだと思います。
元の姿が思い浮かばない食品が、朝も昼も夜も主役の席に座り続けると、体の台所は、精製された糖の強火ととろ火のゆれに、付き合い続けることになります。逆に、主役の席に元の姿が見える食材が座っていれば、脇役の席の加工食品は、心強い助っ人のままでいてくれます。
席替えの実例を、ひとつだけ。たとえば、毎朝の甘い菓子パンが主役だったとしたら、それを週末のお楽しみの席に移して、平日の主役にはごはんと卵と味噌汁を座らせてみる。菓子パンを捨てるのではなく、座る席を変えるだけ。この「ゼロにしない」感覚が、長く続けるいちばんのコツだと、わたしは思っています。
だから、目指すのは「排除」ではなく「席替え」です。怖がる目ではなく、選ぶ目。それさえあれば、スーパーの棚は敵ではなく、今日も頼れる台所の延長になります。
07では、何を食べればいいのか。次回、お話しします
今日は、「体によさそうな顔をした食べもの」の裏側を、一緒にのぞいてきました。
加工とは、台所の外で済まされた下ごしらえであること。
下ごしらえが深くなるほど、元の食材の顔が見えなくなること。
甘くない顔をした「見えない糖」が、エネルギーの火加減をゆらしやすいこと。
そして、パッケージは表ではなく、裏の「台所の顔」で選べること。
この目は、一度持ってしまえば、なくなりません。特別な知識を増やさなくても、棚の前で三秒立ち止まるだけで働いてくれる、一生ものの道具です。今日の夕方の買いものから、さっそく連れて行ってあげてください。
ここまでは、いわば「引き算の目」の話でした。
すると次に、こんな声が聞こえてきそうです。
「わかりました。では結局、何を食べればいいのですか」と。
次回は、その問いに正面からお答えします。丸ごとの食材のこと。たんぱく質と野菜という土台のこと。そして、あなた自身の「本当の食のピラミッド」を、台所で組み立てていく方法のこと。
前編が「選ぶ目」なら、後編は「組み立てる手」の話です。どうぞ、楽しみにしていてください。
その気持ちに「選ぶ目」がひとつ加われば、もう十分。
今日の買いものから、裏側を三秒だけ、のぞいてみてくださいね。
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