涼しくなったのに、疲れが抜けない人へ。
夏のあいだ肌に張りついていた暑さが、ゆるみはじめています。
それなのに、なぜか、疲れが抜けない。
涼しくなったら楽になるはずだったのに、と。
今日は、その「なぜか」のほうに、いっしょに耳をすませてみたいのです。
01風は変わったのに、疲れは残っている
空が、すこし高くなりました。
夕方の風に、秋のはじまりの匂いが混ざる日が増えてきました。季節は、たしかに変わりはじめています。
それなのに、朝、起き上がるのがすこし重い。休日にちゃんと休んだはずなのに、月曜の自分がすっきりしていない。人と話すのが、ほんのすこしだけ、おっくうに感じる。
「涼しくなったのに、どうして」と、思っていませんか。
わたしにも、覚えがあります。朝いちばん、窓辺の椅子に座って空を見た日のことです。高くなった空をきれいだなと思うより先に、ためいきのほうが出ました。深呼吸をしようとして、息が思ったより浅いところで止まってしまったことも。
まずお伝えしたいのは、この「抜けない疲れ」は、あなたの怠けでも、気合いの不足でもない、ということです。
季節の変わり目には、体だけでなく、心にも、静かに表れてくるものがあるのです。
02それは心の「頑張りすぎ」のサインかもしれません
夏バテという言葉があるように、体は夏の疲れをためこみます。でも今日ここでお話ししたいのは、体のほうではなく、心のほうの話です。
夏のあいだの心を、すこし思い出してみてください。
暑さをしのぐ工夫。長い休みの段取り。増える予定と、増えるやりとり。行事の準備、旅の支度、日々の献立。心はずっと、外に向かって開きっぱなしだったのではないでしょうか。
晴れの日がつづくあいだ、わたしたちは、あまり空を見ません。天気を気にするのは、雲行きが変わるときです。
心も、似ています。
忙しさの真ん中にいるあいだは、疲れは表に出てきません。出てくる余裕すら、ないからです。そして季節が変わり、風がゆるんで、暮らしの速度がすこし落ちたとき。ためていたものが、やっと表に出てこられるのです。
だから、涼しくなってから疲れが顔を出すのは、順番として、むしろ自然なことです。
「涼しくなったのに疲れている」のではなく、「涼しくなったから、疲れがようやく声を出せた」。そう捉え直してみると、いまのあなたの状態は、故障ではなく、便りです。夏をちゃんと生きてきた心からの、すこし遅れて届いた便り。
その便りの差出人の名前が、「頑張りすぎ」なのかもしれません。
03「頑張り」は、気づかないうちに積もります
「頑張りすぎと言われても、そんなに頑張った覚えはないのだけれど」と思った方も、いるかもしれません。
じつは、その「覚えがない」ところが、いちばんの目印だったりします。
頑張りには、二種類あると、わたしは思っています。
ひとつは、自分で「よし、頑張るぞ」と決めてする頑張り。これは自覚があるので、終わったら休めます。
もうひとつは、頑張っているつもりのない頑張りです。
ちゃんとしなきゃ。機嫌よくいなきゃ。返事は早くしなきゃ。迷惑をかけないようにしなきゃ。どれも小さくて、どれも当たり前の顔をしています。だから、頑張りとして数えられません。
でも、心のなかでは、そのたびに、糸が一本ずつ張られています。
思い当たる場面が、あるかもしれません。まわりの予定を先回りして整えていた午後。疲れているのに「大丈夫です」と笑って答えた夕方。眠る前、明日の段取りを頭のなかで三周させていた夜。どれも、誰にも見えない頑張りです。見えないから、ねぎらわれることも、ありません。
一本一本は、細い糸です。張った瞬間には、何も感じません。けれど、夏のあいだじゅう張りつづけた糸は、秋の入り口で、束になっています。弓の弦のように張り詰めた糸は、鳴らさなくても、持っているだけで腕が疲れるのです。
抜けない疲れの正体は、案外、この「数えられなかった頑張り」の束なのかもしれません。
疲れに気づけたことは、後退ではなく、感度です。張り詰めた糸に気づけない心は、糸をゆるめることもできません。「疲れているな」と思えたいまのあなたは、すでに、ゆるめる入り口に立っています。
04感情は、通り過ぎる雲です
疲れが表に出てくると、いっしょに、いろいろな感情も顔を出します。
わけもなく焦る。ささいなことにイラッとする。「みんな頑張っているのに、わたしだけ」と、自分を責める声が聞こえる。
そんなとき、わたしたちはつい、その感情を消そうとしてしまいます。焦っちゃだめ。イライラしちゃだめ。こんなことで落ちこんじゃだめ。
でも、ここで、空を思い出してほしいのです。
あなたの心が空だとしたら、感情は、そこを流れていく雲です。
灰色の重たい雲の日もあれば、ちぎれ雲がつぎつぎ流れる日もあります。けれど、どんな雲も、空そのものを傷つけることはありません。雲は、湧いて、流れて、いつか通り過ぎていきます。そして雲の上には、いつも変わらない空があります。
焦りも、イライラも、自分を責める声も、雲です。あなたという空の、天気のひとつです。雲が出たからといって、空が壊れたわけではないのです。
心理学の分野でも、湧いてきた感情を押さえこむのではなく、「いま焦りがあるな」と名前をつけて眺めることが、感情とのあいだにすこし距離をつくる助けになるのではないか。そんな研究があります。消すのでも、飲みこまれるのでもなく、雲として見送る、という第三の道です。
ここで、ひとつだけ、問いを置かせてください。空を見上げるのと同じ気持ちで、眺めてみてください。
いま、あなたの空には、
どんな雲が、流れているでしょうか。
答えは、言葉にならなくてもかまいません。「なんだか灰色の、大きいのがいる」くらいで、じゅうぶんです。
わたしは、雲の名前をひとつずつ覚えています。うろこ雲、ひつじ雲、入道雲。覚えたところで天気が変わるわけではありませんが、名前のあるものは、ただの「なんだかいやなもの」でいるときより、すこし眺めやすい気がしています。
雲に名前をつけて、見上げた瞬間、あなたはもう、雲のなかではなく、空の側に立っています。それだけで、呼吸のできる場所が、すこし広くなります。
05休むことに、罪悪感があってもいい
「じゃあ、休めばいいんですね」と言われて、すっと休める人は、じつはあまり多くありません。
横になった瞬間に、やり残したことが頭に浮かぶ。「こんなことしていていいのかな」と、そわそわする。休んでいるのに、休めていない。その感じ、よくわかります。
休むことへの罪悪感は、長いあいだ頑張りつづけてきた人ほど、濃く出るもののように思います。頑張りが暮らしの標準になっていた人にとって、休むことは、いつもの自分から外れることのように感じられるからです。
だから今日は、「罪悪感を消してから休みましょう」とは言いません。
罪悪感が、あってもいいのです。
そわそわしたままで、いい。「休んでいいのかな」と思いながらで、いい。罪悪感という雲を浮かべたまま、それでも横になっている。それも、立派な休息です。
雲ひとつない快晴の日にしか休んではいけない、なんて決まりは、どこにもありません。曇りの日の休息も、休息です。空は、雨の日に「晴れなきゃ」と焦ったりしません。曇りの日の空は、曇りのままで、ちゃんと空です。
わたしも、休むと決めた日の午後ほど、そわそわしてしまうことがあります。そんな日は、「いま、罪悪感の雲が出ているな」と、名前をつけて眺めるだけにしています。雲を消すのではなく、雲といっしょに、ソファに沈む。それでいいのだと思うのです。
疲れが抜けないままのあなたの、そのままでいい。焦りが浮かんでは消えるあなたの、そのままでいい。今日のあなたの空模様は、今日のあなたの、ほんとうの天気なのですから。
061日のどこかで、足を止める。「3呼吸」の練習
それでは、今日からできる、小さな練習の話をします。
まとまった休みを取りましょう、という話ではありません。用意するものも、ありません。1日のどこかで、していることの手を止めて、呼吸を3回だけ、ていねいにする。それだけです。
やり方は、こうです。
まず、足の裏を感じます。立っていても、座っていてもかまいません。床や地面に触れている足の裏に、そっと気持ちを向けます。雲のなかから、地上に降りてくる感覚です。
そして、息を吐きます。吸うことからではなく、吐くことから始めるのが、小さなコツです。張り詰めた糸をゆるめるように、ふうっと、長めに。
吐ききったら、息は自然に入ってきます。それを、3回。
ゆっくり息を吐く時間をつくることが、心の落ち着きと関係している可能性がある。そんな報告をする研究もあります。もちろん、3呼吸ですべてが変わる、という話ではありません。ただ、1日に一度、自分のところへ帰ってくる小さな駅をつくる。そう思ってもらえたら、じゅうぶんです。
なぜ3回だけなのか。短いからです。
「毎朝10分の瞑想」は、立派すぎて、疲れた日にこそ遠くなります。3呼吸は、信号待ちのあいだに終わる長さです。疲れているいまのあなたのままで、始められます。
3呼吸のあいだに、考えごとが浮かんでもかまいません。「あ、考えていたな」と気づいて、また足の裏に戻る。この行ったり来たりこそが、練習の中身です。うまくできたかどうかは、採点しなくてだいじょうぶです。
3呼吸の、小さなレシピ
- 手を止めて、足の裏が床に触れている感覚をさがす
- 吸うより先に、ふうっと長めに息を吐く
- 吐ききったら、入ってくる息にまかせる。これを3回
- 浮かんでいる感情があれば、雲として、名前だけつけて見送る
- 終わったら、そのまま次のことへ。ふりかえりも反省も、いりません
いま、あなたの空には、どんな雲が流れているでしょうか。
3呼吸を終えたあと、心のなかで、この問いをひとつ置いてみてください。答えは「灰色の大きいの」くらいの短さでかまいません。名前をつけられたら、その雲は、もう流れはじめています。
タイミングは、いつでもかまいません。やかんのお湯を待つあいだ。洗濯物を干し終えた、ベランダで。夕方、日が短くなったなと気づいた、その瞬間に。
1日のどこかに、この3呼吸の駅がひとつあるだけで、張り詰めた糸は、その日のぶんだけ、ゆるみます。糸は、一気にほどかなくていいのです。張られたときと同じように、すこしずつ、ゆるめていけばいいのですから。
07今日の一呼吸
涼しくなったのに抜けない疲れは、あなたが弱くなった知らせではありません。
夏のあいだ、数えられないほどの小さな頑張りを積んできた心が、季節の変わり目に、やっと出してくれた声です。
その声に、気合いで応えなくていいのです。焦りの雲も、罪悪感の雲も、浮かべたままでいい。あなたは雲ではなく、雲を眺めている空のほうなのですから。
それでは、今日の一呼吸を。
この画面から目を上げて、足の裏を感じて、ふうっと、ひとつ息を吐いてみてください。
いま吐いたその息が、夏のあいだ張りつづけた糸の、最初の一本をゆるめています。読み終えたあとのあなたの空に、秋のやわらかい風が、通りはじめますように。
今日のどこかの3呼吸が、あなたの小さな駅になりますように。
ステラライフ Mind マインドフルネス担当
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