夏の終わり、おなかの調子がゆらぐ人へ。
それなのに、体のほうはなんだか重たいままです。
食欲がいまひとつ戻らない。おなかが張る。なんとなく、すっきりしない。
夏のあいだ、冷たい麺と冷たい飲みものに助けられてきた体が、
ここへきて小さな声を上げているのかもしれません。
01「なんとなく、おなかが重い」は気のせいではありません
暑さのピークを越えたのに、食欲が戻らない。ヨーグルトやサラダのような軽いものばかり選んでしまう。おなかが張って、朝のおなかのリズムも定まらない。
夏の終わりになると、こういう声をよくいただきます。
これを「夏バテの残り」「気のせい」と片づけてしまうのは、少しもったいないと思っています。体のなかでは、もう少し具体的なことが起きているからです。
ひと夏のあいだ、私たちの胃腸は、冷たいものを受け止め続けてきました。氷の入った飲みもの、冷たい麺、アイス。どれも夏を乗り切るための味方でしたが、その一方で、おなかは内側から冷やされ続けてきたのです。
おなかが冷えると、消化や吸収の力が落ちやすくなると考えられています。つまり、いま感じている重さは、頑張って夏を越えてきた胃腸からの「少し休ませて」というサインなのかもしれません。
02東洋医学では「脾(ひ)」が疲れている、と捉えます
東洋医学には、「脾(ひ)」という言葉があります。解剖学の脾臓(ひぞう)そのものではなく、食べたものを消化して、エネルギーに変えて全身に配る、そのはたらき全体を指す言葉です。台所とお勝手番を合わせたような役割、とイメージしていただくと近いと思います。
東洋医学では、この脾は「冷え」と「湿気」が苦手だと言われてきました。冷たいものが続く夏は、脾にとっていちばん消耗する季節。そして夏の終わりは、その疲れがまとめて表に出てくる時期だと考えられています。
食欲が戻らないのも、おなかが張るのも、脾というお勝手番が、ひと夏の残業のあとで少し息切れしている状態。そんなふうに名前をつけてあげると、自分を責める気持ちが、ふっとほどけていきます。
03発酵食品は「先回りの消化」です
では、疲れているお勝手番に、どう手を貸してあげればいいのでしょうか。
ここで登場するのが、今日の主役、発酵食品です。味噌、納豆、ぬか漬け、甘酒、ヨーグルト。日本の食卓に、昔からそっと並んできた顔ぶれです。
発酵とは、麹菌(こうじきん)や乳酸菌、納豆菌といった小さな微生物たちが、食材をあらかじめ分解してくれる営みのことです。大豆のたんぱく質は、微生物の手でより小さな成分へとほどかれ、お米のでんぷんは、やさしい甘みへと変わっていきます。
つまり発酵食品とは、「消化の下ごしらえが、すでに済んでいる食べもの」なのです。
疲れている胃腸にとって、これはとてもありがたいことです。ゼロから分解しなくていいぶん、消化の負担が軽くなると考えられています。お勝手番が息切れしているときに、下ごしらえ済みの食材が届く。発酵食品を食卓に置くことは、そういう「先回りの手助け」に近いのだと思っています。
発酵食品は「体にいいものを足す」というより、「胃腸の仕事を減らしてあげる」食べものと捉えることもできます。足し算に見えて、じつは引き算。疲れている時期ほど、この引き算がやさしく効いてくると考えられています。
04腸のなかの「小さな住人たち」の話
発酵食品のはたらきは、消化の下ごしらえだけではありません。もうひとつの舞台が、腸のなかにあります。
私たちの腸には、数十兆ともいわれる細菌たちが住んでいます。腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)。いわば、おなかのなかの小さな町です。この町の住人たちのバランスが、消化や吸収、そして日々のコンディションと深く関わっていると考えられています。
発酵食品との付き合い方には、二つの入り口があります。
ひとつは、乳酸菌や納豆菌のような「菌そのもの」を届けること。もうひとつは、住人たちの「ごはん」になるものを届けることです。食物繊維やオリゴ糖がその代表で、これらをエサにして、腸のなかの住人たちは元気に働いてくれると言われています。
おもしろいのは、住人たちがそのエサを分解するときに、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という成分を作り出してくれることです。この成分は、腸そのものの元気を支える存在として、近年の研究で注目されています。
菌を届けて、エサも届けて、町のにぎわいを取り戻す。発酵食品と野菜や海藻を一緒にとることは、この二つの入り口を同時にたたくことになるのです。味噌汁にわかめときのこを入れる。それだけで、じつは理にかなった一杯になっています。
ご相談の場でも、おなかのことを気にされている方はとても多いです。そうした方が、腸を「調子が悪くなる場所」ではなく「毎日世話をする小さな町」として眺めるようになると、食卓の景色が変わっていく。そんな変化を、何度も見てきました。特別なことをするのではなく、町の住人たちに今日も一品差し入れる。その感覚が、いちばん長続きするようです。
あなたの今日の食卓に、
おなかの住人たちへの「差し入れ」は、ありましたか。
05まずはこの三つから。台所の発酵たち
発酵食品といっても、顔ぶれはたくさんあります。ぜんぶを取り入れる必要はありません。日本の台所になじみ深い三つから、気に入ったひとつを選んでみてください。
味噌
大豆のたんぱく質が、麹の力であらかじめほどかれた、日本の台所の大黒柱です。温かい味噌汁は、冷えたおなかをじんわり温めながら、下ごしらえ済みの栄養を届けてくれる一杯。夏の終わりの「脾」の疲れには、いちばん頼りになる存在だと思っています。
納豆
納豆菌は生命力の強い菌として知られています。たんぱく質と食物繊維を一緒にとれるのも、うれしいところです。朝ごはんに一パック添えるだけ、という手軽さは、続けやすさの点で群を抜いています。
ぬか漬け・甘酒
ぬか漬けは、野菜の食物繊維と乳酸菌を一皿でとれる、小さな名脇役です。甘酒(米麹の、アルコールを含まないもの)は、でんぷんがやさしい甘みまで分解された飲みもの。食欲が戻らない朝の、最初のひと口にも向いています。
06「毎日の食卓に、ひとつ足すだけ」でいい理由
ここからが、今日いちばんお伝えしたいところです。
腸のなかの住人たちとの付き合いは、一夜漬けが効かない世界です。たくさんの発酵食品を一度に食べた日があっても、町のにぎわいは、その日かぎりでは定着しにくいと考えられています。
大事なのは、量より「毎日であること」。そして、毎日であるためには、小さいことです。
「ひとつ足す」の実例
- 朝の食卓に、温かい味噌汁を一杯(わかめ・きのこ入りなら、なおうれしい)
- 白いごはんに、納豆を一パック
- 夕食の隅に、ぬか漬けを二切れ
- おやつ代わりに、米麹の甘酒を小さなコップに一杯
- いつものスープに、仕上げの味噌をひとさじ溶く
どれも、献立を変えるほどのことではありません。いまある食卓に、そっとひとつ置くだけです。
大きく変えようとすると、続きません。三日で終わる大改革より、半年続く「ひとつ足し」のほうが、腸の町にとってはずっと確かな応援になります。
ひと工夫。「温かいもの」と組み合わせる
夏の終わりのこの時期は、発酵食品を「温かいかたち」でとるのがおすすめです。冷えて疲れた脾をいたわりながら、下ごしらえ済みの栄養を届けられるからです。
味噌汁はその代表ですし、納豆も温かいごはんにのせれば、おなかへのあたりがやわらぎます。ヨーグルトが好きな方は、冷蔵庫から出して少し置いてから、常温に近づけて食べるだけでも、おなかの負担は変わってくると思います。
07おなかの町に、今日も一品
もう一度だけ、お伝えします。
夏の終わりのおなかの重さは、あなたの意志が弱いからでも、だらしないからでもありません。
ひと夏、冷たいものと一緒に頑張ってきた胃腸が、少し疲れているだけなのです。
だから、鍛え直すのではなく、手を貸してあげる。
その手助けとして、発酵食品という「先回りの消化」が、昔から日本の台所に置かれてきました。
今日の食卓に、温かい味噌汁を一杯。それが難しければ、納豆を一パック。
そのくらいの小ささで、いいのです。
小さな一品を、おなかの町への差し入れとして、毎日そっと続けていく。
その積み重ねが、秋の食欲と、秋の元気の土台を、静かに整えてくれる気がしています。
大改革はいりません。温かい一杯と、発酵のひと皿があれば、じゅうぶんです。
ステラライフ Health Compass 栄養担当
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