夏、しっかり寝ても疲れが抜けない人へ。
距離もペースもいつもと同じなのに、息の上がり方が早い。走り終えても、疲れがなかなか引いていかない。
ああ、これだな、と思いました。
毎年この時期になると、多くの方から届く「寝ても取れない」あの疲れと、同じ顔をしていたのです。
01「夏バテ」「気合い不足」では、ありません
しっかり寝たはずなのに、朝から体が重い。階段をのぼるだけで息が切れる。夕方になると、電池が切れたようにぱたりと動けなくなる。
こういう疲れを誰かに話すと、「夏バテでしょ」「気合いが足りないんじゃない?」と、軽く流されてしまうことがあります。
でも、これは気合いの問題ではありません。体のなかで、エネルギーそのものが作りにくくなっている——そう捉えると、ずいぶん景色が変わってきます。
02夏は、「気」がいちばん減りやすい季節です
東洋医学には、生きて動くために必要なエネルギーそのものを指す言葉があります。「気(き)」と呼ばれているものです。
気は、毎日の食事と呼吸、そして睡眠から少しずつ蓄えられ、体を動かすほどに減っていきます。
ところが夏は、この気がとりわけ減りやすい季節です。暑さのなかで体温を一定に保つだけでも、私たちは静かにエネルギーを使い続けています。汗をかけば、気を支えるうるおいも一緒に流れ出ていきます。
そうして気とうるおいの両方が底をつきかけた状態を、東洋医学では「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼ぶことがあります。夏の慢性的な疲れは、心が弱ったからではなく、季節そのものが気を削っていく時期に入っているだけ、とも言えるのです。
「気合いで乗り切ろう」とアクセルを踏み続けるのは、残り少ない燃料の車で坂道を登り続けるようなものです。がんばるほど、減るスピードだけが上がっていきます。
03体のなかの、小さな「かまど」の話
もう少しだけ、体の中で起きていることをお話しします。
私たちの細胞のなかには、エネルギーを生み出す小さな器官があります。「ミトコンドリア」と呼ばれる、いわば体のなかの小さなかまどです。
じつは、エネルギーを作る道すじは体に二つあります。ひとつは素早く火をつけられるけれど、生み出せる量は少ないルート。もうひとつが、このミトコンドリアという、時間はかかるけれど大きなエネルギーを生み出す本命のルートです。
夏の疲れが続くとき、弱りやすいのは、この本命のかまどのほうです。かまどの火が小さくなると、日中にエネルギー切れを起こしやすく、休んでも火がなかなか戻りません。
そして、このかまどに火を灯すために欠かせないのが、ビタミンB群・鉄・マグネシウムといった栄養素です。これらが足りないと、材料はあっても火がつかない、という状態になってしまいます。夏は汗と一緒にマグネシウムなどのミネラルが流れ出やすく、食が細くなって材料そのものも入ってきにくい。夏に火が弱りやすいのには、ちゃんと理由があるのです。
04「食べているのに元気が出ない」の裏側
ちゃんと食べているのに、元気が出ない。そういう方もいらっしゃいます。
その背景には、栄養が体のなかでうまく使われていない、という事情が隠れていることがあります。同じものを食べても、それをエネルギーに変える効率には、生まれつきの個人差があるのです。
たとえば「MTHFR(エムティーエイチエフアール)」という遺伝子。ここに変異があると、葉酸(ようさん)という栄養素を、体が使える形に変える力が弱まりやすいと言われています。すると、かまどを回すための下ごしらえが滞りやすくなります。
もうひとつ、「VDR(ビーディーアール)」というビタミンDの受け皿にあたる遺伝子。ここに変異があると、ビタミンDをうまく活かしにくく、ミトコンドリアの働きも支えづらくなると考えられています。
血液検査を、こうした「体からの手紙」として読む見方もあります。精密栄養学では、たとえばビタミンB6や中性脂肪、亜鉛の充足をあらわす数値が低いとき、エネルギーを作る土台が細っているサインとして参考にすることがあります。数値ひとつで決まるものではありませんが、体は思っている以上に、たくさんの言葉で状態を教えてくれています。
「食べても元気が出ない」の答えは、量ではなく“質とルート”にあることがあります。同じ栄養でも、体が使いやすい形で届けてあげると、かまどまで届きやすくなると考えられています。
この夏、あなたの体は
「もっとがんばれ」と言っていますか。
それとも「少し補って」と言っていますか。
05夏の疲れを支える、3つの漢方
食事や休み方で土台を整えるのが日々の基本ですが、つらいときの選択肢として、漢方があります。どれが合うかは体質によって変わりますので、必ず漢方薬局や、漢方に詳しい医師にご相談ください。
清暑益気湯
夏の暑さで気力・体力を消耗し、食欲が落ちて、汗をかいてぐったりする。そんな夏の疲れに、まず名前があがることの多い処方です。暑さで削られた気と、失われたうるおいの両方を、そっと補っていくと考えられています。
六君子湯
食欲がわかない、胃のあたりが重い、食べても力にならない。胃腸が弱って、エネルギーの材料を取り込みにくくなっているタイプの方に向くとされる処方です。胃腸をやさしく整えながら、気を底から支えてくれます。
生脈散
汗をかきすぎて、息切れやだるさ、口の渇きが続く。うるおいと気を一度にごっそり失ってしまったような、夏らしい消耗に用いられてきた処方です。気とうるおいを同時に立て直していくと考えられています。
※「夏の疲れ」だから一律にこれ、というわけではありません。ご自身で決めず、専門家に相談しながら選んでいただくのが、いちばんの近道だと思います。
06食卓とリズムで、火を守る
大きな一手を探すより、小さな整え方を積み重ねるほうが、夏の疲れには確かな戦略になります。
夏のかまどを支えてくれる食材
- 豚肉・うなぎ・玄米(ビタミンB群を補いやすい)
- 枝豆・豆腐・納豆(たんぱく質とミネラル)
- あさり・しじみ・赤身の魚(鉄を届けやすい)
- 海藻・ナッツ・ごま(汗で失われるマグネシウム)
- 梅干し・味噌汁(汗で出た塩分とうるおいを、やさしく戻す)
もうひとつ。空腹で、火を消さない
かまどの火が戻るまでは、エネルギーを切らさない工夫が助けになります。長い空腹で血糖が大きく下がると、体はよけいに疲れやすくなるからです。
一度にたくさん食べるより、少しずつこまめに。温かいスープや、ゆで卵、小分けにしたナッツのような「軽い補い」を、日中にはさんでみてください。冷たいものばかりでお腹を冷やすと、せっかくの材料を受け取る胃腸まで弱ってしまうので、そこだけそっと気にかけてあげてください。
朝のひかりと、夕方のひと歩き
朝、目が覚めたらカーテンを開けて、一分だけ光を浴びる。夜は少し早めに休む。日が傾いて涼しくなった夕方に、無理のない距離を歩く。
私は夏のあいだ、走る距離をあえて短くして、そのぶん光を浴びる時間と補食を大事にするようにしています。気合いで距離を伸ばしていた頃より、そのほうが体がずっと軽いのです。
07疲れを、気合いで押し切らない夏へ
もう一度だけ、お伝えします。
夏の抜けない疲れは、あなたの心が弱いからではありません。
暑さのなかでよく持ちこたえている体が、「少し補ってください」と、静かに声をあげているだけです。
火を守るのは、特別なことではありません。汗で失った材料を食卓で戻す。空腹で火を消さない。朝の光を浴びて、夜は早めに休む。そして、つらいときには漢方の手も借りる。
疲れを気合いで押し切ろうとするのを、いったんやめてみる。
それが、この夏をいちばん軽く越えていく近道かもしれません。
そう思うと、暑さとも少しだけ、うまく付き合えそうな気がします。
もう少し深く、自分の体の声を聴いてみたい方へ
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分子栄養カウンセラー / ステラライフ Health Compass


