五月の朝が、いつもより重い人へ。

五月の朝、窓辺で温かいマグカップを持って静かに外を眺める女性
先日、いつものコースを走っていて、ふと足が止まりました。
距離も、ペースも、いつもと同じはずなのに、息が上がるのが妙に早い。

ああ、これかもしれない、と思いました。
毎年、この時期に多くの方から相談を受ける、あの「重さ」の正体です。

014月の体と、5月の体は、別物だと思っています

4月のあいだ、私たちは知らないうちに少しだけ体を張りつめています。新しい予定、新しい人、新しい温度。「ふつうに生活している」と思っていても、内側のセンサーは休まずに動き続けています。

そして連休が来て、ふっと張りつめた糸がゆるむ。

このゆるんだ瞬間に、4月のあいだ気づかなかった疲れが、一気に表に出てきます。

これを「気力の問題」と片づけてしまう人が多いのですが、私は少し違う見方をしています。

02気力ではなく、体の「燃料」の話

東洋医学には、生きるために必要なエネルギーそのものを指す言葉があります。「気(き)」と呼ばれているものです。

気は目に見えませんが、毎日の食事と呼吸、そして睡眠から少しずつ蓄えられていきます。そして、気を使うほどに減っていきます。

4月のあいだ、私たちは大量に気を使い続けていました。新しい環境への適応に、それだけのエネルギーがかかるからです。

そして、気の貯金がぐっと底をついた状態のことを、東洋医学では「気虚(ききょ)」と呼んでいます。

つまり、5月のだるさは、心が弱ったから出てくるのではありません。
ガソリンがちゃんと減って、気虚と呼ばれる状態に入っているだけです。

ひとつの視点

「気合いでなんとかしよう」というアプローチは、ガソリンが減った車にアクセルを踏み続けるようなものです。やればやるほど、減るスピードが上がります。

03体に何が起きているのか、もう少しだけ

もう少しだけ、体の中で何が起きているかをお話しします。

春のあいだ、私たちの体は「アクセルを踏む側の自律神経」を優位にして、活動量を上げてきました。これは季節として自然なことです。

ただ、アクセルを踏み続けると、エネルギーを生み出す細胞内の発電所——ミトコンドリアという仕組み——が疲弊していきます。エネルギーを作る原料(ビタミンB群・鉄・たんぱく質など)も、どんどん消費されていきます。

5月のだるさは、ここで起きます。
発電所が疲れていて、原料も足りない。それが「やる気が出ない」「体が重い」という言葉で出てくるわけです。

SHITSUMON

今朝、目が覚めたとき、
あなたの体はいちばん最初に何を欲しがっていましたか?

04「立て直す」のではなく、「補う」

温かい味噌汁とゆで卵、お茶のシンプルな朝食

こういうとき、つい「立て直さなきゃ」「やる気を出さなきゃ」と考えてしまいます。

でも今、いちばん必要なのは、立て直すための作業ではなく、「補う」という静かな行為だと思います。

① まずは、温かい一杯から

気が減っているときは、消化の力も同時に落ちています。冷たいものや、油っこいもの、量の多いものは、いまの体には少し重い。

朝、いちばんに口にするものを、温かい味噌汁か、お湯にしてみてください。胃腸にやさしく届くものから始めると、その後のたんぱく質も、ちゃんと受け取れる体に戻ります。

② エネルギー工場の原料を、ひとつだけ

細胞のなかでエネルギーを生み出す工場は、ビタミンB群・鉄・たんぱく質などを材料に動いています。

全部をいっぺんに整える必要はありません。今日はたまごをひとつ、明日は赤身のお肉を少し、その次は青魚を。

足し算で考えてみてください。「これだけ足りない」ではなく、「今日はこれをひとつ足した」で十分です。

③ 朝のひかりを、一分だけ

朝、目が覚めたら、まずカーテンを少しだけ開けてみてください。一分でも、二分でもいい。光が目に届くだけで、体内のリズムが整い始めます。

私は走るときに、これを毎日実感しています。同じコースでも、太陽が出ている朝と、出ていない朝では、体の動き出す速さが違うのです。

05もうひとつの選択肢、漢方という補い方

食事や光で整えるのが日々の土台だとすれば、もう少し体の内側から助けてあげる選択肢として、漢方があります。

気を補うために用いられる漢方は「補剤(ほざい)」と呼ばれ、気虚の方に処方されることがあります。代表的なものを、3つだけ紹介しておきます。

※どれが合うかは体質によって違うので、必ず漢方薬局や、漢方に詳しい医師にご相談ください。

補中益気湯

ほちゅうえっきとう

疲れて手足に力が入らない、食後に強い眠気が出る、声が小さくなってしまう。そんな状態のときに選ばれることが多い処方です。胃腸の働きをそっと支えながら、エネルギーを底から立ち上げていく、と考えられています。

十全大補湯

じゅうぜんだいほとう

顔色が冴えない、皮膚がカサつく、貧血気味で手足が冷える。気だけでなく、栄養(東洋医学でいう「血」)の不足も重なっている方に向くとされる処方です。気と血の両方を、ゆっくり満たしていく働きをします。

六君子湯

りっくんしとう

食欲がない、胃のあたりが重い、ときどき吐き気がする。気が不足していて、なおかつ胃に水分がたまりやすいタイプの方に合うとされる処方です。胃腸を整えながら、同時に気を補ってくれます。

漢方は「これを飲めばすべて解決する」というものではありません。体質との相性がいちばん大事です。気になった方は、まず漢方の専門家にご相談いただくのが、いちばん近道だと思います。

縁側で庭の新緑を眺める女性の後ろ姿

06焦らないでください。本当に、焦らないでほしい

もう一度だけ、お伝えします。

5月のだるさは、あなたの心が弱いからではありません。
今までよく頑張った体が、「少し補ってください」と、やさしく声をあげているだけです。

気を補うのは、漢方や食事だけではありません。少し早く眠ること、誰かと笑うこと、空を見上げること。それらも全部、気を満たす行為です。

気力で乗り切ろうとするのを、いったんやめてみる。
それが、いちばん近道かもしれません。

自分の体の声を、いつもより少しだけ大きく聴いてあげる時期。
五月は、そういう季節なのかもしれません。
FOR YOU

もう少し深く、自分の体の声を聴いてみたい方へ

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カキノキ カズタカ
分子栄養カウンセラー / ステラライフ Health Compass
本記事は、東洋医学および分子栄養学の一般的な知識を、暮らしのヒントとしてお伝えするものです。特定の病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。気になる症状が続くときは、ご自身で判断せず、医師や信頼できる専門家にご相談ください。サプリメントや漢方薬を試される場合も、現在通院中の方や妊娠中の方は、必ずかかりつけの専門家にご相談ください。